里山はもうすっかり花が失われました。入園料はいただけないと、オーナー夫人がお茶を御馳走してくださいました。小さな陽だまりの中、キュウちゃんがやってきました。長～いリードに導かれているように。
ご近所さんが付き添っておられましたが、すっかり丸くなってしまったキュウちゃんが顔つきまで何やら遠くを見つめているように感じました。

途中で捨てられる犬も珍しくない世の中で、いつもご近所さんに愛され慈しまれる犬の存在は、それ自体心を慰められるもののような気がしています。手でも出そうものなら咬みつかれそうなキュウちゃんですが、ご近所さんは大切にしています。久しぶりにすっかり晴れた空の下、キュウちゃんの長く伸びたリードの範囲だけが彼の自由の世界かも知れないが、彼は少なくても不幸とは言えないのではないか…と余計なことを考えました。
ｼｮｰﾍﾟﾝﾊｳｱｰが書いています。『いやしくも、事、幸・不幸に関いては、あらゆる点に於いて、想像力に制限を加えるがよい。したがって何よりまず空中楼閣を築かぬがよい。空中楼閣は建てる端から溜息と共に取壊されなければならない性質のものだから、犠牲が大きすぎるきらいがある。…・・・だから事、幸・不幸に関しては、理性と判断力との目で見るにとどめ、したがって感情を交えぬ冷静な熟慮により、純然たる概念を用い、其れだけを抽象的に見て、対処すべきである』と。さすが、厭世的哲学者の真骨頂を垣間見たような気分がします。こんなに理性的に生きられないし、其れではなにやら淋しい気もするけれど・・・・。